自己実現と教育法 ―柔道に教えられ、学んだこと―(全10回)

第9回「イギリス留学で得たもの」



第1回 「同級生から贈られた表彰状」
第2回 「実るほど頭を垂れる稲穂かな」
第3回 「気づきのヒント」
第4回 「問題児という固定概念」
第5回 「自分のことは自分が一番よく知っている?」
第6回 「日本人にとってのスポーツ」
第7回 「夢を実現するために」
第8回 「オレは世界で一番幸せな男」
第10回 「偉大な先生の教えを胸に」

私は柔道を通じて素晴らしい友人をたくさん持つことができました。同じ釜の飯を食った柔道部の仲間たち、試合をした相手、そしてナショナルチームのメンバーたち。こいつには負けたくない、この学校には負けたくない、このチームには負けたくないと思った相手ほど親しくなれたような気がします。

海外遠征やいろいろな国際大会に参加して、外国人の友達もたくさんできました。かつて競い合った彼らの中には、私と同じように、それぞれの国で指導者や連盟の役員として頑張っている仲間も多い。もちろん、当時の友情は今も続いていますし、世界中の仲間とのこの友情は、私にとって非常に大きな財産です。これからの活動の中で、この友情の輪をもっともっと大きく広げていきたいと思っています。

私は現役引退後、1年間イギリスに留学しました。このときの経験も非常に大きな財産になっています。ロンドン郊外のウィンブルドンに住まいを構えて、ヨーロッパ各国で行われる国際大会を視察したり、ナショナルチームの合宿や講演会に参加したんですが、柔道というスポーツが私が思っていたより遥かに“世界の柔道”になっていることがわかりました。

どの国へ行っても、みんな非常に熱心です。私は留学前、中学時代の恩師の白石先生から「ヨーロッパへ行っても絶対お前の技は教えてはいかん。わかったな」と言われ、「はい、わかりました」と約束して行ったんですが、どの国でも「教えてくれ」「教えてくれ」と集まってきて、教えるとものすごく喜ばれるんですね。そして、そういうやりとりを通 してこちらが望んでいることを教えてくれる。先生との約束もすっかり忘れて、自分のすべてを1年でさらけ出してきたような気がします。しかしそのかわりに、いろいろな国の柔道関係者、スポーツ関係者とかけがえのない信頼関係を築くことができました。

帰国したとき、私は結婚してすぐ女房と2人でイギリスへ行って、帰りは子供と3人だったものですから、まあそういうこともあって多くのマスコミに囲まれました。「留学の成果 は何ですか」と聞かれて、「この子です」というわけにはいかない(笑い)。「今ここで1年間の成果 はこれですとお見せできるものはありません。でもこの1年でこれからの私が変わります。5年後、10年後変わります。それをもって、私にかけていただいた費用や時間を数倍にしてお返しできると思います。非常に貴重な1年でした」と、そんなふうに答えた覚えがあります。

向こうではたくさんの選手や連盟役員、またスポーツ省の方などと柔道について語り合いました。これから柔道発展のために何をしたらいいのか。課題は何なのか。柔道というスポーツはどうあるべきか。本当にいろいろなことを語り合いまして、それで一つ、私が非常に強く感じたのが、柔道は日本で生まれ育ったスポーツですから、我々日本の柔道人には「柔道はこういうものだ」という固定観念がある。しかしヨーロッパをはじめとする世界の柔道人は、日本から柔道を取り入れて、これをもっともっとわかりやすい、魅力あるものにしていきたいと、そういう目で見ているということです。疑問に思うところはいろいろ質問したりしたんですが、こちらが感心させられることも度々あったんですね。

私がこれからの日本の柔道、世界の柔道の役に立つには、この固定観念を自分自身で打ち破っていかないといけない。それが難しかったら、少しでも違った角度から、あるいはより広い視野でものを見る人間にならないといけない……。そういうことを身をもって感じたイギリス留学でした。






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