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ニューヨーク語学研修 中編

国際都市で経験してきたこと(2003年8月29日)


午前中は個人レッスンを受け、午後からは様々な方々と話をする機会があったのですが、その中で2人の方をご紹介しましょう。

まず、アメリカの巨大メディアNBCの上席副社長ピーター・ダイヤモンド氏です。この方とはテレビと柔道の可能性について話をしました。彼はオリンピック担当でもあり、スポーツを中継するテレビ側の意見を聞くことができました。

ご存知のようにアメリカでは柔道はマイナースポーツになります。格闘技としては柔道より、テコンドー、空手が人気です。アメリカでのオリンピック放送で柔道が生中継されたことは、私が金メダルを取った84年のロサンゼルス大会以来ないそうです。

ダイヤモンド氏は、アメリカで柔道が人気スポーツになるには、「選手の感情が表に出ること」「用語が英語になること」「投げ技のポイント制」といったことなどを挙げていました。もちろんこれには反論しましたが、テレビ側の意見を聞くことも重要だと考えています。柔道は最も世界に広がっているスポーツの一つで、国際柔道連盟には187カ国が加盟しており、これはサッカー、陸上に次いでオリンピック種目では第3位と聞いています。さらにメダルも様々な国が獲得している国際的なスポーツといえるでしょう。

しかし、世界一のスポーツ大国アメリカでマイナー競技であるということは今後影響が出てくるかもしれません。テレビ側の意見を鵜呑みにするわけではなく、柔道を永遠にオリンピック種目として、世界に広めていくためにも多くの視点や問題点を持っておくことは重要だと考えます。

また興味深い話もお聞きしました。それはバスケットボールに関してです。2002年夏、アメリカ・インディアナポリスでバスケットボールの世界選手権が行われました。この時アメリカは国際大会の連勝を58でストップされ、6位と惨敗しました。バルセロナオリンピックで、プロバスケットのNBA選手がメンバーになって「ドリームチーム」と呼ばれてから始めての敗戦です。

今回勝てなかった理由は、アメリカがベストメンバーでなかったせいもありますが、ダイヤモンド氏はそれ以外の点に着目していました。それはNBAが人気のあるスポーツとして「魅せる」部分に力が置かれているということでした。プロの世界は勝ち負けも大事ですが、観客にアピールし、喜ばせるのも重要な要素です。

つまりNBAというプロが「魅せるバスケット」に比重を置きすぎたため、世界選手権の敗戦につながったのでは、とのことでした。「勝負」と「スポーツとしての人気」について考えさせられる話でした。

最後にダイヤモンド氏とは、「世界柔道のビデオを今度持ってくるから、私の解説で一緒に見ましょう」と話しをしました。機会があればぜひ、もっと意見交換をしてみたいと思います。

もう一人はペンタゴンで3回宇宙へ行ったパイロットの方で現在、宇宙飛行士を選考する側に回っています。宇宙に行かれた方とお話をする機会はそうないので、いろいろ質問させていただきました。

まずお聞きしたのは、面接官としてどういったポイントで宇宙飛行士を選ぶのか?ということです。これに対しての答えは「電話ボックス(宇宙船の狭い船内)の中に2週間一緒にいられるかどうかですよ」とのことでした。パイロットに必要な資質は多くありますが、まず人間どうしの調和が一番大事というのが大変興味深く感じました。

宇宙飛行士は宇宙から地球を見ると、よく価値観や人生観が変わると言いますが、この質問に関しては「それは変わらなかった」とのことでした。「だが、地球がひとつの生命として生きている感じがするし、見えない存在を感じた。人間は謙虚になり、そして力を合わせていかないといけないと思った」とおっしゃていました。とても貴重な話をお伺いすることができました。


後編へ続く…






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