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2007/9/15

国際柔道連盟総会での理事選挙の結果について
山下泰裕

平素より温かいご支援ご協力及びご激励を賜り感謝申し上げます。
さて、新聞やテレビで報道されましたので既にご存知と思いますが、去る9月10日にブラジル・リオデジャネイロにて開催された国際柔道連盟(以下IJF) 総会で教育・コーチング理事の選挙が行われ再選を目指して立候補した私は、アルジェリアのメリジャ氏に61対123で敗れました。この結果、IJF理事会に日本からの代表者がいなくなるという事態になってしまいました(翌日、指名理事として上村春樹氏の就任が決定される)。
皆様におかれましては、この結果を非常に残念に思われるとともに日本柔道の今後を案じておられるのではないかとお察し致します。私自身は、劣勢が伝えられる中で手練手管を弄することなく正々堂々と選挙に臨みました。しかしながら力及ばず、ご期待にそえなかったことをお詫び申し上げます。
つきましては、これまでの経緯を説明し、現在の心境と今後の抱負を述べたいと思います。ご一読賜れば幸いです。

まず初めに、2003年のIJF総会(大阪)で教育・コーチング理事を目指して立候補した経緯に触れます。このポストには、中村良三氏が就いておられ、その前が佐藤宣践氏で、長年、日本の代表者が理事を務めてきました。その最も大きな理由が、発展途上国への支援や柔道の教育的価値を高めることを担当するので、全日本柔道連盟や講道館の支援なしでは困難なことから、日本が担うべきであると言う意見がIJF内で多数を占めていたのです。現在でもそうです。しかし、前年の2002年頃にはヨーロッパ柔道連盟(以下EJU)会長のビゼール氏がパンアメリカやアフリカ諸国と協定を結び「日本降し」を画策していました。この状況に気付いた全日本柔道連盟から私に、「この状況下で戦えるのは山下君しかいない」という話がありました。私にとっては突然のことでしたが、この依頼を受諾し、思ってもいなかった教育・コーチング理事選挙に立候補することになった次第です。私の立候補を聞いて画策を断念したのか、他に立候補する者はなく当選しました。
就任直後は、全てが初仕事、初体験で苦労しました。だが徐々に皆様方の支援や応援を受けて、公約した発展途上国等での柔道普及やコーチ達の意見を理事会へ反映すること、そして教育的価値の向上などに取り組み、成果も上がるようになってきました。

ところが就任後まもなく、2005年カイロ総会でのIJF会長選挙に向けて現職の朴会長(当時)とビゼール・EJU会長の間で勢力争いが起こったのです。ビゼール氏は、ルーマニアで生まれ、オーストリアに渡って苦労しながら事業(主にカジノの機材や葉巻等の販売など)を成功させました。EJUの中心は西欧でしたが、ビゼール氏は、豊富な資金力を背景に旧ソ連邦や東欧の国々をまとめて会長の座に就任したといわれています。
私は、ビゼール氏の柔道に対する情熱を認めますが、資金力に物をいわせ、決して民主的とはいえない手法で運営し、反対する者は徹底して排除するというやり方に大きな違和感を覚えました。IJFが民主的でなくなるという危機感を強め、対抗馬であった朴氏を支持したのです。つまり、単なる人間性や利害関係といった理由ではなく、IJF及び世界の柔道の発展にとってどちらがリーダーシップをとることがよいのかを判断し、朴氏を支持したのです。この判断基準は、私の信念といってよいものです。
会長選挙の結果は、朴氏が100対85の15票差でビゼール氏を破り再選を果たしました。しかし、ビゼール氏は、結果を不服として国際スポーツ裁判所(CASS)に選挙の無効を訴えました(ビゼール氏の敗訴)。また臨時総会の開催を画策していました。臨時総会を開いて加盟国の2/3以上を抑え、朴会長の不信任案を可決し、自分自身が会長に就任するという企てです。その一環として、アジア柔道連盟の会長選挙ではクウェートのオベイド氏をEJUの総力を上げて支援し、日本から立候補した佐藤宣践氏を破って勢力拡大に成功しました。さらにパンアメリカ大陸でも現体制に不満を持つ国々の切り崩しを行い、自分に賛同しない者に対して対立候補を擁立し、支援するという方法で勢力拡大を図ってきたのです。
一方、朴会長は、この流れを食い止めることができず、今回のリオデジャネイロ総会で不信任案が可決される見通しになったことを察知し、9月に入って突如辞任しました。これにより理事会での多数を握ったビゼール氏は、会長代行に就任しました。また事務総長と財務総長の選挙でも圧力と取引によって自派の候補者を当選させ、総会では、規約を無視する形で会長任期を朴前会長の残任期間2年にプラスして本来選挙で決めるべき次の4年を足した6年の任期に変更しました。ビゼール会長が表明した世界選手権の毎年開催やグランプリの開催、ランキング制の導入といった重要事項も、総会と理事会に諮ることなく決定事項として総会後に発表されたのです。

こういう状況下で教育・コーチング理事選挙を迎えました。ビゼール会長は、「山下対メリジャの戦いではなく、山下対ビゼールの戦い」と捉え、影響下にある国々を締め付けながら面子を掛け選挙活動を活発に展開しました。これに対して私は、あくまでも4年間の実績を判断してもらう方針で臨みました。世界各国、各地域に友人、知人がいますから、私の耳にもいろいろな情報が入ってきます。その代表的なものを紹介します。
立候補表明後に、ビゼール側にいる旧知の友人達から次の提案がありました。
「お前を世界の柔道の舞台から失うのは非常に大きな損失だ。お前のこれまでの活動も十分に理解している。しかし、これは政治なんだ。今の状況ではいくらお前でも勝ち目はない。候補者云々で決まるのではないからだ。だがもしビゼールを支持するのであれば、すぐにでも対抗馬を下ろす。よく考えてくれ。」
私は、もちろん断りました。もし私が彼に取り込まれたら、IJFの民主的運営は出来なくなる。もし私が相手方に寝返ったら、その時点で共に歩んできた友人達の命運が尽きる。それ以上に自らの保身の為に信念を曲げることは出来ない。このことは、私の生き方に関わることです。
また、落選によって私並びに日本が受けるダメージを心配して、国内外の友人や先輩から「立候補を取り止めるべき」との助言がありました。一つの見方として理解できますが、私自身は、自分の信念に基づいて正々堂々と立ち向かうことを決心し、日本を発ち、空路リオデジャネイロへの途につきました。

残念ながら結果は、報告のとおりです。朴会長の突然の辞任、全ての権限を手にしたビゼール氏側の組織力など、状況は不利になるばかりでした。しかしながら、厳しく徹底した締め付けにもかかわらず61カ国が私に投票しました。これらの国々に心から感謝したいと思います。
私の落選により理事会に日本人がいなくなるという事態を招き、その責任を感じていました。しかし、総会翌日にビゼール会長が新たに新設した指名理事として議決権こそ持たないものの全日本柔道連盟の上村春樹専務理事が選出されたことは日本の柔道界にとって最悪の事態は免れることにつながり、胸をなでおろしております。
顧みれば、この4年間(最後の1年間は政争で活動が停滞しましたが)、IJF理事会内の仲間、教育・コーチング委員会のメンバーを初めとする外国の役員、そして現場のコーチや選手達といった多くの方々と共に世界の柔道発展の為にさまざまな議論を行い、多くの活動を行ってまいりました。会議やセミナー、そしてカンファレンス等の主催や柔道界に必要とされるテーマに基づいたDVDの作成及び配布、又リサイクル柔道衣や畳の送付、そして指導者の派遣や柔道の教育的価値の向上といった活動を通して、世界柔道の未来に向けて多少なりとも貢献できたのではないかと自負しております(このことについては改めて詳細を冊子等で報告します)。これらの活動を全面的に支えてくださった東海大学、全日本柔道連盟、講道館の皆様、そして側面からご支援頂いた外務省や国際交流基金、民間企業の方々に心から感謝申し上げます。

柔道の国際活動を通して素晴らしい仲間に出会い、共に力を合わせて活動できた事を誇りに思っています。同時に、私自身、多くのことを学び、貴重でかけがえのない経験を積みました。幸いなことに、多くの方々にご協力賜り、2006年4月に「NPO法人柔道教育ソリダリティ」を設立し、活動を展開しています。NPO法人は、「柔道の国際的普及、振興、柔道による文化交流、異文化理解の推進、柔道による青少年育成に関わる事業を行い、柔道を通じての国際理解、子どもの健全育成を図ること」を目的にしています。IJF理事を退いた後も、柔道の国際的普及と発展、また柔道によって日本と世界を結ぶ交流を推進し、今まで以上に精力的に活動する所存です。
重ねて皆様のご支援ご協力に心から感謝するとともに今後とも相変わりませぬご理解を賜りますようお願い申し上げます。
季節の変わり目ですが、ご自愛祈ります。
(総会を終えて、リオデジャネイロより)


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