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アテネオリンピック代表選手へ

 

4月18日の全日本女子柔道選手権大会と4月29日の全日本柔道選手権大会の結果から、男女14名のアテネオリンピック代表選手が決まりました。男女ともにベストのメンバーと言えるでしょう。先日(5月15日・16日)のアジア選手権では男子選手が振るわない結果でしたが、アテネ五輪では必ず期待に答えてくれると確信しています。

メダル獲得数に興味が集まりますね。私の予想では、男女合わせて今回は金が4プラスマイナス2。各々の持てる力が十分に発揮できれば、6以上も夢ではないと思います。

過去のメダルの数を振り返ってみますと、シドニーで男子3、女子1。アトランタは男子2で女子1。バルセロナ、男子2、女子1。ソウル、男子1、女子はゼロ。ロサンゼルスは、男子4、女子0。

これまでは、前年の世界チャンピオンがなかなかオリンピックで優勝できないという傾向がありました。シドニーでは、男女14名(無差別級の2名を除く)の世界チャンピオンがいましたが、メダルを獲れたのは井上康生と田村亮子だけでした。そしてアトランタでは、金からは遠いと予想されていた瀧本が優勝。同じくアトランタ五輪では、難しいと思われていた恵本が優勝し、確実と言われた田村が負けました。オリンピックでは番狂わせが起きやすいようです。それだけに、これまでに実績をなかなか得られなかった選手でも、一つ波に乗れば勝てる。今回の男女14名全員に金のチャンスがあると思います。

オリンピックは4年に一度だから番狂わせが起こりやすいのだと思います。2年に一度の世界選手権は、その時の一番強い選手がチャンピオンになりますよ。でも、オリンピックは4年に一度、一生に一度か二度でしょう。プレッシャーに押しつぶされる選手もいれば、あの雰囲気にぐーっと乗ってすごい力を発揮する選手もいる。だから、オリンピックは難しいとも言えるし、チャンスが大きいとも言える。前年の世界チャンピオンになった人間にはみんなからマークされる分だけ難しく、なかなか勝てなかった人間にはチャンスがある。オリンピックには魔物も住んでいるし、勝利の女神もいるんです。

代表になれた選手たちは、自分の力でこのチャンスを掴んだのだから、これからの、オリンピックまでの日々でいきいきと輝いて欲しい。

私は現役時代、それから監督時代によくこう言われました。「オリンピック、大変ですね」。私はその度にオウム返しのように、「大変だからやりがいがあるんです」と答えてきました。本当に大変なのは、紙一重で代表になれなかった選手なんです。代表に選ばれた後、「重い荷物を背負わされた」とか「追いつめられた」というような気持ちになる場合がある。周囲の影響もあるでしょう。しかし、そんな気持ちでは勝てません。そう思ったときには、二番手にチャンスを譲って欲しい、辞退した方がよいと思います。

オリンピック代表選手に選ばれた人たちは、自分の努力で、自分の夢にチャレンジできる権利を得たんです。今の自分は、自分がイメージしてきた一番輝いている自分でしょう。イメージしてきたのは、辛い、苦しい自分ではなかったはずです。自分で頑張ってきて、その結果の理想の自分がそこにいるわけでしょう。そこを履き違えないで欲しいと思います。だから、私がインタビュアーだったら、「大変ですね」なんて言わないですね。「素晴らしいことですね、ご自分の夢に挑戦できて。ご自分の夢に向かう今の気持ちはいかがですか?」と聞くでしょう。

自分のためにやり残しないのよう、やるべきことをやり尽くして、そして、アテネで存分に輝いて欲しいですね。失敗なんか恐れずに、可能性だけを信じて、自分でやってきたことを全身で、遠慮なく、出し惜しみせずに臨んで欲しいですね。

遠慮というのは、慎重になってしまうとか用心深くなってしまうということです。残された時間はわずかですから、足りないところを補う。悪いところを直すなんて考えなくてもいいと思いますね。いいところ、得意なところを伸ばすことに集中して欲しい。いいところが出なければ絶対に勝てません。あの大舞台で、どんな相手にでも自分のいいところを出し切れたときに、夢が現実のものになってくるんですね。コーチの皆さんも選手以上にいきいきと、オリンピックまでの日々を輝いていて欲しいと思います。




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