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全日本選抜柔道体重別選手権大会を振り返って

4月4日、福岡で行われた全日本選抜柔道体重別選手権大会は、前売り券も早々と売り切れ、報道陣の数もシドニーの5倍といわれ、独特な雰囲気で始まりました。男子柔道のアテネ五輪代表選考を兼ねたこの大会は、私の記憶にもないほどの番狂わせが続出しました。

100キロ級の鈴木桂治は井上康生の兄、井上智和に投げられ、昨年の世界選手権の勝者、73キロ級の金丸雄介は初戦敗退。90キロ級の泉浩は第一シードながら初戦敗退・・・など、改めて勝負はやってみなければ分からないということを感じました。

この大会では、やはり井上康生が光っていました。彼には華がある。井上は3月の始めに、練習中に150キロの選手が投げられて飛んできて、それが彼の膝にぶつかり、3週間ほど稽古ができませんでした。そして、鈴木桂治も力を上げてきていて、周囲も二人の力は互角との声がほとんどでした。鈴木桂治は準決勝で井上智和に破れ、井上康生が優勝しました。井上康生は試合後のインタビューで「この1ヶ月間は目の前に大きな壁が幾つも立ちはだかっていた」と語っていました。この大会では井上康生の、ここ一番の集中力と勝負強さを見せられました。

井上智和と鈴木桂治はこれまでに6度試合をし、鈴木の全勝。柔道では対戦相手の向き不向きがあり、これまでは井上智和の試合内容は良くありませんでした。井上智和にとっては、鈴木桂治はやりにくい相手です。逆に鈴木にとっては井上智和はやりやすい相手だと感じていたでしょう。そのことがあって、鈴木は決勝のことを先に考えてしまったのかもしれません。井上智和は父親から「おまえも男だったら意地を見せてみろ。また同じような試合をしたら親子の縁を切るぞ」という手紙を受け取っていたそうです。弟の井上康生の援護射撃をしたいという気持ちもあってか、気迫がすごかった。智和も膝をこわしていて、康生と二人とも稽古ができなくて落ち込んでいる時期がありました。準決勝での鈴木との戦いは、智和の気迫が素晴らしく、決め手の小外刈りは、あの大会一番の見事な技でした。



アテネ五輪代表選手へ贈る

60キロ級の野村忠宏は、よくここまで復帰してきたと思います。今回はマークが厳しくて良い試合はできなかったようですが、順当な勝ちを収めています。2月のパリ国際大会の試合ぶりでは、3大会連続の金メダルも不可能ではないと感じました。とことん自分をいじめて、やり残しなくアテネの舞台に立って欲しいですね。

66キロ級の内柴正人。去年のこの大会では優勝候補の筆頭でしたが、減量に失敗して出場できなかった。一度は全日本から外された男が次の講道館杯で優勝したとき、「この舞台に立てただけでうれしかった」と涙を流していました。その気持ちを忘れないで欲しい。オレは一度は死んだ男だ!と開き直るつもりで、アテネの青空のもとでもう一度がんばって欲しい。そのためには、いまはまだ候補選手ですから、アジア選手権で勝たなければなりません。

73キロ級では、久しぶりに元気の良い高松正裕が戻ってきました。早い時期から注目されていましたが、伸び悩んでいたようです。外国ではいい試合をしても、国内ではポカがあった。2月のパリ国際は素晴らしい内容でした。キレのある豪快な背負い投げ、そしてうま味も加わってきた。勢いがついてきた気がしますね。

81キロ級は、第1シードが準決勝で負け、第2シードは一回戦で負け、第3シードは決勝で負けた。そして代表の座に上がったのは、第4シードの塘内将彦。非常にねばり強い選手で、99年のバーミンガム世界選手権では日本代表として出場しましたが、力を発揮できず、早々と破れました。このクラスは、外国人選手の層が厚く、特に金をとるのは難しい。第4シードにもかかわらず掴んだチャンスをぜひ活かして欲しい。

日本代表になる選手としては、ポイントを取っても最後まで逃げない、途中で息が上がってはいけない、という日本の柔道界の暗黙の了解があります。そのためには、とことん稽古をやり込むこと、勝ち負けではなく最後まで相手に向かってゆくことが大切です。そこに日本代表にふさわしい気迫が生まれます。

この大会で中村健三が現役を引退しました。初戦で内股をかけられて一本負けしましたが、よくここまでがんばってきました。心からご苦労様といわせていただきます。

90キロ級の泉浩は、一回戦で一本負けしたにもかかわらず、代表に選ばれました。泉はここ1年、外国人選手に対しての成績が非常にいい。2月のパリ国際大会での優勝は、どの試合も素晴らしい内容でした。今回の代表の選考は、強化委員会でも異論は出ませんでした。

全日本体重別大会で5人の選手が代表になりましが、かなり若いメンバーが選ばれたと思います。若い選手は、オリンピックまでにもうひと伸びします。いまの勢いを大事にして欲しいと思います。




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